いまさら孤独であることに傷ついて


だいじょうぶ

今はひとりでも

思い出がある

 


「散った」

とはいえ道半ば

 


自然に還るまで

何百年も黙す 

 

きみのことを考えるたびに

きみは

深い緑の葉を揺らして

わたしのことを

許してくれるだろうか

 

   

 きっとぼくは

と つぶやいて

その先がないことに気づく

 

憧れは遠すぎて

夢がわたしを傷つける

 

ここにいた誰かの

気配をまとっている

 

ただ 在るということ

ここに 在るということ

 

もう誰の役にも立っていないが

存在する

美しく存在する 

 

忘れられない人があることの

しあわせ

 

外は雨

どうにもならないことを

受け入れるまでの

時刻表にはない

長い停車時間 

 

痛みはいつも私だけのものだった

 

時は錆び

時は記憶する 

 

人間というものの

平均値 

ざわざわと人がいるあたり

口を開けている闇がある

 

どんなものにもなれそうな

幽刻

身体を脱ぎ捨てて

あなたに会いに行く

 

すでに

夢の出口あたり

 

取り返しのつかないことどもを

浮かべて

空は青空 

 

生まれる前の空

一緒に呼吸をしていた人がいる 

 

知らないうちに

人を傷つけた

知らなかったとは言わせない

という者が心のうちにいる

 

ゆっくりと

悪意の芽を育てている人の隣で

見ていただけの共犯 

 

いちまんかい

たすけてと言った

こころの中だけで 

 

時が流れ

流れた分だけ

傷口が乾いていく

 

誰にも言わずに

心の底に沈めておく

花五輪

 

時の錘

順番にいなくなることを

受け入れなさい 

 

取り返しのつかないことを

したのかもしれない 

 

眼も耳も閉じなさい 

 

未練たらたらですか

 

 

たましいは行方不明です

 

 

伝えようとするたびにあらわになる

たとえば

からっぽの郵便受け

  

孤独について

あなたの笑顔が満開すぎて

まるでもう

助けてくださいと

言っているようなものだったので

ともだちでいることができなくなりました

あれからわたしはひとりぼっちです

人は人を救えないから

人は人を救えないから

遺言

わたくしたちはやがていなくなる


物だけが残り


死が恩寵であることを知るまでに君は


どれほどの恋をするのだろう


どれほどの悲しみを味わうのだろう


死んだほうがましだと思う夜をいくつも重ね

君はやがていなくなる


善光寺・冬

悲しみは私を老人にした


老人にならなければ

わからないことがある


たとえば

花は散ること


森は枯れること


律していなければ

人は汚れること


いずれにせよ

人は死ぬこと


遍路

叶わなかった願い


祈り


おのおのに沈め


待ち続けていた日々を

天に返す


悲しみについては黙したまま


歩きながら

消えてゆこうとする


椿 ~未練~

夢とうつつの境目あたりで

紅い椿を育てています


わたくしの椿は性悪だったので


夜ごと泣いて

どうしようもなく


激しく落花しましたからには


結界の向こう

淀みの底に向かって


どうしようもなく

花だけが残って


剥製動物園

剥製動物園は

静かな動物園です

あなたのところへ行く途中だった

わたしに名札を付けて

親しげに呼んでくださったのは

便利だったから?

どこへ帰ればいいのだろう

からだだけが残ってしまって

人間を殺す夢を見る

そして

自分が死んでいたことに気づく

剥製動物園の空は

閉じられています

他人の不幸

春の夕刻

珈琲を飲みながら

他人の不幸について

考えている

見える幸せ

見えない不幸せ

ヒトノフコウハミツノアジ

と言ったのは誰だったのか

できれば

愛のために死にたかったので

わたくしはもう

片隅に行って

さめざめと泣くほかはありません

そんなに傷ついてはいけません

傷つくことは傷つけること